河和田は1500年の歴史をもつ漆器の産地だ。河和田の町中には、多くの漆器商店や工房がひしめいている。
漆器づくりにはいくつかの工程がある。器の土台となる「木地」をつくるところ、その木地に漆を塗る「漆塗り」、そして漆の塗られた器に、装飾を施す「蒔絵」だ。
駒本蒔絵工房は、その名の通り「蒔絵」を施すところである。駒本さんという叙勲を受賞された職人さんと、若手の女性職人さんが、伝統的な日本家屋の一室で、日々蒔絵を施している。
見学させていただくだけでも、たくさん発見があるのだが、ここでで蒔絵の体験もできると聞いて、海外出身の友人と同行することになった。叙勲を受賞された職人さんとの体験は、とても貴重な機会だ。
体験は、箸かアクセサリーのどちらかを選択することができる。こちらが箸に蒔絵を施したもの。
そして、こちらがアクセサリーに蒔絵を施したものだ。
今回はアクセサリーでの蒔絵体験を選んだ。デザインから自分で考えるのだが、こういった例をいくつか挙げてくれるので、初めてでも取り掛かりやすい。
まず、紙にデザインの下絵を描いていく。
下絵が決まったら、いよいよ本番だ。
職人さんが使うのと同じ筆を使って、慎重にひとつひとつ作業していく。筆の先の細さからも、その作業の繊細さがわかる。
慎重に、作業を続けていく。
時々ねこも顔を出してくれた。
こそしてついに完成。自分で作ったものは、やっぱり特別感が違う。
楽しく、とても穏やかで、贅沢な時間を過ごすことができた。
帰り際、駒本さんは呟くようにこう言った。
「人は、打ちのめされることを避けちゃいけない。打ちのめされ、立ち上がった人だけが大成する。」
この言葉がしばらく頭から離れずにいた。
駒本さんの穏やかな笑顔の裏に感じた、力強い精神力のようなものは、若い頃の多くの経験から作られているのかもしれない。
駒本さんが施す蒔絵の中にも、美しさや繊細さの中に、地に足のついた太さのようなものがあるような気がした。おそらく、この太さのようなものは、駒本さんが施す蒔絵にしか宿らないのだと思う。
長年続けることでしか、辿り着けない境地がある。
そして、人はそれを「芸術」と呼ぶのだろう。